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【映画】香港怪奇物語 歪んだ三つの空間 ネタバレ感想

【作品情報】

3人の監督によって手掛けられた、香港を舞台としたサスペンス・ホラー短編3篇で構成されたオムニバス映画である。

【あらすじ】

中学生時代に眼を見開いた死体を発見したことからトラウマを抱えた女性が一人暮らしの部屋であの「眼」に見られている恐怖を描いた「暗い隙間」(監督:ホイ・イップサン/出演:チェリー・ガン)

客のいない暗闇のモールに突如現れたガスマスクの女と不気味な警備員と対峙するはめになった2人のネット配信者を描く「デッドモール」(フルーツ・チャン監督/出演:ジェリー・ラム、シシリア・ソー)

溺死者と見られる顔面蒼白の幽霊が目撃された古びたアパートに住む5人の住人たちが幽霊退治に立ち上がる「アパート」(フォン・チーチャン監督/出演:リッチー・レン

香港怪奇物語 歪んだ三つの空間 : 作品情報 - 映画.com

【ネタバレ感想】

暗い隙間

歌手であるヤウガーが新居のマンションへ引っ越してくる。そして始まった新生活の中で、ふと昔抱えてしまったトラウマを思いだすようになってしまう。トラウマとは、ヤウガーが中学生の頃、建物と塀の狭い隙間に落ちた、目を見開いている男の遺体を発見してしまったことだった。それ以来、暗い隙間から見つめてくる眼の存在におびえるようになっていた。一時期、精神科医?の親戚の治療によって封印できていたはずが、クローゼットの扉が勝手に開く、スピーカーから音楽が勝手に流れ出すなどの怪現象が起こり、新居の部屋にいると自分以外の誰かが自分を見つめているのでは—?と再び不安に苛まれるようになったのであった。

一番のネタバレになるが、トラウマとなった原因である、死んでいた男の恨みによる心霊系のホラーかと思いきや、人が怖い系のホラーだった。ヤウガーが追い詰められていく要素が多くて、「そりゃ精神も不安定になるわ」となる。なぜなら彼女は昔抱えたトラウマに加えて、マネージャー兼音楽プロデューサーの男と不倫していたが、彼女の精神が不安定になっていくにつれて男は薄情となった末に作中で殺害されてしまうし、辛い時にはいつも支えてくれていた親友が突然、友情でなく愛情を自分に向けてきて、予期していなかったあまりに強いショックを受けてしまうなど、誰も信じられなくなって頼るところがなくなり孤立する運びは上手いなと思った。人が怖い系のホラーと言ったとおり犯人がいるわけだが、その犯人は引っ越し業者であった。序盤に新しい鍵をヤウガーへ渡していたシーンもあり、合鍵もどうにかして入手した、ということだろう。

正直、オチは早々に読めてしまった。部屋で過ごすヤウガーの様子をベランダからカーテン越しに写すショットもあり、これはたぶん犯人視点なんだろうなとあからさまに見えてしまった。ラストは、ヤウガーの心が壊れてしまったと解釈したが、あの親友がまたヤウガーを支えていくのだろうか。人が怖い系ホラーを見るたびに、近隣の住民の方々との関係は良好であるようにしたいといつも思う。

デッドモール

投資ライバー・ヨン。都市伝説系ライバー・ガルーダ。2人は新しく出来たモールにやってきて配信中。ヨンはモールの宣伝案件。ガルーダは、死傷者を多数出した大火災が起きたモール跡地に建てられていることから、幽霊が出るなど、新しいモールでささやかれている奇妙なウワサの真相を確かめに来たのであった。ガスマスクをつけた女や刃物を振り回す不気味な警備員も加わって2人のライバーは暗闇となったモール内を走り回る。

2篇目である「デッドモール」。配信者をネタにしていて今を意識した作りだった。自分が話した投資話で損をした視聴者から恨まれているエピソードなど、ヨンがめちゃくちゃなヤツでラストまで嫌いなままでいられるところが良かった。2人のライバーが主役であることから、両者の視点によるそれぞれの物語を描いて、最後はひとつに収束していく。明らかになる登場人物たちの意外な関係性、ガルーダの真の狙い。物語は驚きのクライマックスを迎える。実はこれも人が怖い系ホラー。ここから物語のネタバレ。ガスマスクをつけた女はガルーダの実の姉で、姉妹は過去に起きた大火災の被害者。姉は顔に大ヤケドを負ってしまい、爛れた顔を隠すためガスマスクを付けている。さらに姉妹はその火災で両親を亡くしてしまっている。そして、ヨンもその場にいたのだった。ヨンはろくに火も消さないまま煙草の吸殻を適当にモール内でポイ捨てをし、その吸殻の火が引火して大火災となったのであった。姉妹はヨンがポイ捨てをした瞬間を目撃し、それ以来復讐する機会をずっと狙っていたのであった。ガルーダは配信内でヨンに謝罪を求め、姉はヨンを亡き者としたく襲い掛かる。ヨンは2人の追跡を振り切り、自分の車に乗り込み、発車させる。が、姉はすでに自動車の後部座席へと乗り込んでいた。そのまま姉はガソリンを被り火を付ける。自動車は炎上し、爆発する。姉は命を懸けて復讐を遂げたのであった。

冒頭でマスクをして歩く香港の人々が写されていたし、ガスマスクを付けている人物が出てくるので、コロナ禍という時代的な要素を含めたかったのだろう。それから、ショッピングモール内に店舗が十分に入っておらず、配信者に宣伝させるという物語の要素も、コロナ禍で外出が控えられたことによる弊害が描かれていた点で良いと思った。モール内の灯りがほとんど落ち、広く暗い通路にぽつんとひとり、という状況はなかなか怖いだろうと感じた。あとベタだけど、配信に対する視聴者コメントが画面上に現れ、視聴者をちらっと写すシーンもあって、安全圏にいる視聴者の無責任な発言を皮肉っている。

結構悲痛なクライマックスで、なんともいえない苦味が残る。特にガルーダの心情を想像するとかなりきつい。ヨンという1人の男のために肉親を全て失ったのだから。他には、唐突に感じる点がいくつかあるように思ったが、時間に限りのある短編のため作る側も難しかったんだろうか。いつだって厄介ごとは過去からやってくるので、自分の立ち振る舞いには気を付けたいと改めて思い直した。

アパート

5階建てのアパートが舞台。5階に住む小説家・アチー。彼女が買い物に出ようと階段を下りていくと、1階に顔面蒼白の溺死者の幽霊らしき存在が佇んでいた。アチーは4階の住人に助けを求めて2人でもう一度下りると、やはり、いる。そこで各階の住人と力を合わせて、どうにかしてこの事態を解決しようと試みる。住人には伝説の人殺しヤクザ・ホーなど濃いキャラばかりだ。幽霊は一体何の目的でアパートに現れたのか。

幽霊が出るウワサが広まってしまうと不動産としての価値を下げてしまうという理由で住人たちが自ら解決に乗り出す冒頭はコメディチックで引き込まれた。焦ったり油断したりした住人がひとりずつ消えていく。幽霊の祟りか、ただの事故か。ここから物語のネタバレとなるが、この幽霊騒動はアチーとホー以外の住人と協力者による自作自演であった。消えていった住人たちも演技。実は妊婦が殺害された事件の容疑者であったアチー。証拠不十分で逮捕されなかったアチーだが、彼女を精神的に追い詰めてボロを出させようという作戦だった(ホーはただ巻き込まれてしまっただけであった)。狙いは功を奏してアチーの精神状態は不安定になってしまう。隠しカメラを持ってアチーのボロを出す瞬間を撮影しようと接近した幽霊役は彼女に殺害されてしまい、幽霊役が持っていた隠しカメラの存在に気付くアチー。彼女は返り血を浴びてなお美しく微笑み、残された住人の部屋の前へ立つ。

これも人が怖い系ホラーだった。途中、幽霊と見ていた存在が実は死体(のフリ)だから捨てに行くシーン(捨てに行った死体が戻ってきた、という定番のホラー展開をしたかったことはわかるが)や伝説のヤクザ・ホーが実は怖がりで臆病で人殺しもしたことがないような人物であることなど、色々な要素を入れ込みすぎていて見づらかった印象を受けてしまった。あと何より怖さを感じられなかったところがいちばん残念だった。ただ、低予算であるとか時間による制約とか作り手側の事情もあるのかとは思うけれど。

【まとめ】

振り返ってみれば、3作とも人が怖い系ホラーだった。怪奇現象を入り口にして最終的には人が怖いよね、という話はミステリー的な仕掛けが上手く決まれば面白くなると思う。どの作品も「実は・・・」と物語にひねりを加えようとしていた。ただ伏線らしき伏線がわかりにくかったり唐突にオチのための設定が現れたりしたように受け取ってしまった部分もあった。この辺りは、鑑賞した僕自身が見逃したり読み取る力量が全然足りなかったりした可能性もある。ホラー映画はアジア圏でも色々な作品が作られていて個人的なヒット作も多くあるので、香港を舞台にした長編ホラーを楽しみに待ちたい。