ホラサス映画におぼれたい

ホラーやサスペンス映画の紹介をしていきます

【映画】トーク・トゥ・ミー ネタバレ感想

【あらすじ】

2年前の母の死と向き合えずにいる高校生ミアは、友人からSNSで話題の「90秒憑依チャレンジ」に誘われ、気晴らしに参加してみることに。それは呪われているという“手”のかたちをした置物を握って「トーク・トゥ・ミー」と唱えると霊が憑依するというもので、その“手”は必ず90秒以内に離さなければならないというルールがあった。強烈なスリルと快感にのめり込みチャレンジを繰り返すミアたちだったが、メンバーの1人にミアの亡き母が憑依してしまい……。

TALK TO ME トーク・トゥ・ミー : 作品情報 - 映画.com

予告

youtu.be

【作品情報】

オーストラリアのティーンエイジャーたちが直面する恐怖を描いたホラー映画。

双子YouTuberとしても活躍している、ダニー・フィリッポウとマイケル・フィリッポウの長編監督デビュー作である。オーストラリア出身の彼らは子供の頃から映画やテレビ番組を作るなど創作活動に熱心だったようだ。

ソフィー・ワイルド、アレクサンドラ・ジェンセン、ミランダ・オットーらが出演。

【ネタバレなし感想】

憑依チャレンジという、交霊の儀式に面白半分で参加した若者が・・・な話。交霊の儀式に使われる「手」のギミックはすごく良かったし、憑依チャレンジでハイになる描写は麻薬やドラッグの比喩と受け取った。主人公がドツボにはまっていく程に取返しがつかなくなっていく展開。設定やテンポはノりやすく、若者ゆえの悩み、過ちは割と丁寧に描写。適度に見やすく適度に怖い良作ホラーだった。

【ネタバレ感想】

ティーンエイジャーたちの孤独

憑依チャレンジというハイテンションでキャッチ―な設定とは対照的に、主人公・ミアやその他の人物像がしっかり作られていて、若者たちの孤独感の描写が丁寧だった。大好きだった母が2年前に亡くなり、父と折り合いが悪いミア。友人も片手で足りるほどの数しかいない。ストレスや不安が高まると爪のマニキュアをガリガリと削り落とす癖がミアの苛立ちや幼さをのぞかせて、個人的に好きな描写だったし、爪の色が落ちていく様子はミアがバッドエンドへ突き進んでいくことの表現だったように感じた。そんな彼女は家庭の問題などによる寂しさを埋めたいがために他人と繋がりたい欲望を持っている。とはいえ、器用な女の子ではない。パーティーの場で社交的に振舞えず、他人との距離感の測り方がバグっている(例えば、親友であるジェイドの彼氏=ミアの元彼だが、親友への配慮が欠けているような接し方をする)ところもあるし、悲しみと孤独感に苛まれ、臆病で現実を直視できていない女の子だ。彼女は終盤に父をハサミで刺してしまうが、父親と向き合おうとしてみたが最後の最後で信じきれないという彼女の弱さが原因である。ミアが父と向き合う気のない時は、父の顔がはっきりと写されない描写も上手いなと思った。

また、ミアのわがままや決断力のなさのために、憑依チャレンジをしたライリー(ジェイドの弟)が目をそむけたくなるほどの大怪我を負ってしまう。罪悪感に打ちひしがれていたのはミアだけではない。姉のジェイド、母のス―も同じく大きな悲痛を感じていた。母子家庭という設定もあり、ジェイドは必要以上に責任あるふるまいを求められていたのではないかと思う。自分が目を離したばかりに大怪我を負わせてしまった自責の念やライリーの無残な姿に動揺と悲しみで余裕のなくなったジェイドが、スーの手を握ろうと触れると乱暴に振り払われてしまう。このシーンのジェイドの姿は雨に打たれてずぶ濡れで、孤独で切なかった。スーはスーで、後悔や悲しみ、怒りがない交ぜになった表情からその心痛がばっちりと伝わってきて、プロの役者は本当にすごい。

憑依チャレンジ中は、周りにいる参加者たちは当然のようにスマートフォンのカメラを向けて動画撮影をする。チャレンジ中の当人がどれだけ苦しそうでもおかしな様子になっていても、彼らは撮影を止めない。ここはベタだけどしっかり皮肉が込められていた。目の前で大変なことが起きているのにスマートフォンに写る画面を通じてしか見ておらず、ある意味撮影者自身には関係のないことだというスタンスに気味の悪さ、恐怖を覚える。きっと動画はSNSに上げることで、友人や見知らぬアカウントからいいねやコメント、再生回数を稼げる良い材料となるのだろう。SNSなどを活用すれば誰かと繋がることが容易になった時代、だからといって誰とでも繋がれるわけじゃないし、繋がり続けることは難しくなったんじゃないかとすら思う時代。繋がりは不安定で、自分と友人の意見が異なったとしても踏み込んだコミュニケーションを取るよりも「人それぞれだね」と対立は回避する。憑依チャレンジで誰かが失敗したり危険が迫ったりしても、撮影者の立場の人間は「参加した人間の選択だし」と自己責任として突き放してしまうのだろう。「まあ、そんなにひどいことにはならないでしょ」と想像と共感を放棄して高をくくってしまう人へのメッセージに思えた。本作は、様々な言語で何かが書き込まれた白い「手」が重要なアイテムだ。その「手」を自分の手で握る間だけ霊が見えて、自分に憑依もさせることができる。結末に触れるが、「手」と手を繋ぐことでミアは仲間に入れてもらい、死んだ母らしき存在との繋がりが生まれ、最後に全てを失うという一番皮肉の効いたラストを迎える。

★怪異について

憑依チャレンジは「手」と自らの手を繋ぐことで霊を見て、憑依させる遊び。ミアはライリーが大怪我を負った憑依チャレンジ以降、「手」の力を借りずとも霊の姿が見えるようになってしまう。ミアの前に母親の霊が現れて彼女を周囲から孤立させるようにコントロールしていく。作中では推測のように語られるが、ミアの前に現れた母親の霊が、本当に母親の霊である保証はどこにもにない。霊は姿を自由に変えられるし、憑依すればその人間の過去や心が読めるかもしれない。狡猾な悪霊が化けてミア、そしてライリーを獲物として狙ったにすぎない可能性もある。何にしても純粋たる悪意が怪異の姿をして迫ってきてミアを飲み込む物語だった。結局、ミアがライリーの代わりに死ぬことで、ライリーを救う。そのうえ、暗闇を彷徨う亡霊となり、暗闇の中に見える小さな光に引き寄せられて「憑依チャレンジ」の霊側として参加するという、永遠に終わらない孤独だけがミアを待つラストだった。

★憑依チャレンジ

憑依チャレンジをした人は黒目の部分が大きくなり、その目はとても不気味だ。さらに目や口の周りはただれたように荒れる。見ている側もつい嫌な気持ちになってしまう様に変貌し、さらに霊に乗っ取られた身体は言うことを聞かなくなる。これは薬物の比喩で、若者への注意喚起であったり戒めとして見せているんだろうなと思った。それで全然知識がないのでオーストラリアの実情について調べてみたところ、オーストラリアは医療用大麻は2016年に合法化、一部の地域(ACT:オーストラリア首都特別地域)においてのみ娯楽用大麻が合法化、ただし18歳以上の成人のみ所持、使用が認められているようだ。映画の最序盤はパーティーのシーンから始まるが「ラリってるぞ」みたいな台詞が出てくるので、恐らくその地域が舞台になっているのだろう。

監督インタビューでは以下のように語っている。

そうですね。この映画の大きな着想源は、近所の男の子が初めてドラッグを体験したときに悪い反応が出てしまい、床でひきつけを起こしてしまったにもかかわらず、側にいた友達が笑いながらその様子を撮影していたことでした。その映像を観たときにすごく嫌な気持ちになり、それを映画で表現しようと思い立ったのです。

SNS時代の新感覚ホラー映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』ダニー&マイケル・フィリッポウ監督インタビュー | GQ JAPAN

物語自体は別に説明的ではないが、伝わりやすいようにテーマやメッセージが込められている側面もあって、上手く計算されたホラーだった。

【まとめ】

憑依チャレンジだウェーイ、と軽いノリでは済まされない結末。軽はずみな行動で最悪な目にあう若者は何度も描かれてきた題材ではあるけれど、きちんと時代性と向き合い今だからこそ伝えられる形でテーマを扱っていたように思う。孤独感の描き方は今の自分にはけっこう刺さる部分があって、双子の監督が作る次のホラー映画も楽しみだ。制作時期は未定とのことだが、『Talk 2 Me』というタイトルで続編も決定している。

 

 

【映画】香港怪奇物語 歪んだ三つの空間 ネタバレ感想

【作品情報】

3人の監督によって手掛けられた、香港を舞台としたサスペンス・ホラー短編3篇で構成されたオムニバス映画である。

【あらすじ】

中学生時代に眼を見開いた死体を発見したことからトラウマを抱えた女性が一人暮らしの部屋であの「眼」に見られている恐怖を描いた「暗い隙間」(監督:ホイ・イップサン/出演:チェリー・ガン)

客のいない暗闇のモールに突如現れたガスマスクの女と不気味な警備員と対峙するはめになった2人のネット配信者を描く「デッドモール」(フルーツ・チャン監督/出演:ジェリー・ラム、シシリア・ソー)

溺死者と見られる顔面蒼白の幽霊が目撃された古びたアパートに住む5人の住人たちが幽霊退治に立ち上がる「アパート」(フォン・チーチャン監督/出演:リッチー・レン

香港怪奇物語 歪んだ三つの空間 : 作品情報 - 映画.com

【ネタバレ感想】

暗い隙間

歌手であるヤウガーが新居のマンションへ引っ越してくる。そして始まった新生活の中で、ふと昔抱えてしまったトラウマを思いだすようになってしまう。トラウマとは、ヤウガーが中学生の頃、建物と塀の狭い隙間に落ちた、目を見開いている男の遺体を発見してしまったことだった。それ以来、暗い隙間から見つめてくる眼の存在におびえるようになっていた。一時期、精神科医?の親戚の治療によって封印できていたはずが、クローゼットの扉が勝手に開く、スピーカーから音楽が勝手に流れ出すなどの怪現象が起こり、新居の部屋にいると自分以外の誰かが自分を見つめているのでは—?と再び不安に苛まれるようになったのであった。

一番のネタバレになるが、トラウマとなった原因である、死んでいた男の恨みによる心霊系のホラーかと思いきや、人が怖い系のホラーだった。ヤウガーが追い詰められていく要素が多くて、「そりゃ精神も不安定になるわ」となる。なぜなら彼女は昔抱えたトラウマに加えて、マネージャー兼音楽プロデューサーの男と不倫していたが、彼女の精神が不安定になっていくにつれて男は薄情となった末に作中で殺害されてしまうし、辛い時にはいつも支えてくれていた親友が突然、友情でなく愛情を自分に向けてきて、予期していなかったあまりに強いショックを受けてしまうなど、誰も信じられなくなって頼るところがなくなり孤立する運びは上手いなと思った。人が怖い系のホラーと言ったとおり犯人がいるわけだが、その犯人は引っ越し業者であった。序盤に新しい鍵をヤウガーへ渡していたシーンもあり、合鍵もどうにかして入手した、ということだろう。

正直、オチは早々に読めてしまった。部屋で過ごすヤウガーの様子をベランダからカーテン越しに写すショットもあり、これはたぶん犯人視点なんだろうなとあからさまに見えてしまった。ラストは、ヤウガーの心が壊れてしまったと解釈したが、あの親友がまたヤウガーを支えていくのだろうか。人が怖い系ホラーを見るたびに、近隣の住民の方々との関係は良好であるようにしたいといつも思う。

デッドモール

投資ライバー・ヨン。都市伝説系ライバー・ガルーダ。2人は新しく出来たモールにやってきて配信中。ヨンはモールの宣伝案件。ガルーダは、死傷者を多数出した大火災が起きたモール跡地に建てられていることから、幽霊が出るなど、新しいモールでささやかれている奇妙なウワサの真相を確かめに来たのであった。ガスマスクをつけた女や刃物を振り回す不気味な警備員も加わって2人のライバーは暗闇となったモール内を走り回る。

2篇目である「デッドモール」。配信者をネタにしていて今を意識した作りだった。自分が話した投資話で損をした視聴者から恨まれているエピソードなど、ヨンがめちゃくちゃなヤツでラストまで嫌いなままでいられるところが良かった。2人のライバーが主役であることから、両者の視点によるそれぞれの物語を描いて、最後はひとつに収束していく。明らかになる登場人物たちの意外な関係性、ガルーダの真の狙い。物語は驚きのクライマックスを迎える。実はこれも人が怖い系ホラー。ここから物語のネタバレ。ガスマスクをつけた女はガルーダの実の姉で、姉妹は過去に起きた大火災の被害者。姉は顔に大ヤケドを負ってしまい、爛れた顔を隠すためガスマスクを付けている。さらに姉妹はその火災で両親を亡くしてしまっている。そして、ヨンもその場にいたのだった。ヨンはろくに火も消さないまま煙草の吸殻を適当にモール内でポイ捨てをし、その吸殻の火が引火して大火災となったのであった。姉妹はヨンがポイ捨てをした瞬間を目撃し、それ以来復讐する機会をずっと狙っていたのであった。ガルーダは配信内でヨンに謝罪を求め、姉はヨンを亡き者としたく襲い掛かる。ヨンは2人の追跡を振り切り、自分の車に乗り込み、発車させる。が、姉はすでに自動車の後部座席へと乗り込んでいた。そのまま姉はガソリンを被り火を付ける。自動車は炎上し、爆発する。姉は命を懸けて復讐を遂げたのであった。

冒頭でマスクをして歩く香港の人々が写されていたし、ガスマスクを付けている人物が出てくるので、コロナ禍という時代的な要素を含めたかったのだろう。それから、ショッピングモール内に店舗が十分に入っておらず、配信者に宣伝させるという物語の要素も、コロナ禍で外出が控えられたことによる弊害が描かれていた点で良いと思った。モール内の灯りがほとんど落ち、広く暗い通路にぽつんとひとり、という状況はなかなか怖いだろうと感じた。あとベタだけど、配信に対する視聴者コメントが画面上に現れ、視聴者をちらっと写すシーンもあって、安全圏にいる視聴者の無責任な発言を皮肉っている。

結構悲痛なクライマックスで、なんともいえない苦味が残る。特にガルーダの心情を想像するとかなりきつい。ヨンという1人の男のために肉親を全て失ったのだから。他には、唐突に感じる点がいくつかあるように思ったが、時間に限りのある短編のため作る側も難しかったんだろうか。いつだって厄介ごとは過去からやってくるので、自分の立ち振る舞いには気を付けたいと改めて思い直した。

アパート

5階建てのアパートが舞台。5階に住む小説家・アチー。彼女が買い物に出ようと階段を下りていくと、1階に顔面蒼白の溺死者の幽霊らしき存在が佇んでいた。アチーは4階の住人に助けを求めて2人でもう一度下りると、やはり、いる。そこで各階の住人と力を合わせて、どうにかしてこの事態を解決しようと試みる。住人には伝説の人殺しヤクザ・ホーなど濃いキャラばかりだ。幽霊は一体何の目的でアパートに現れたのか。

幽霊が出るウワサが広まってしまうと不動産としての価値を下げてしまうという理由で住人たちが自ら解決に乗り出す冒頭はコメディチックで引き込まれた。焦ったり油断したりした住人がひとりずつ消えていく。幽霊の祟りか、ただの事故か。ここから物語のネタバレとなるが、この幽霊騒動はアチーとホー以外の住人と協力者による自作自演であった。消えていった住人たちも演技。実は妊婦が殺害された事件の容疑者であったアチー。証拠不十分で逮捕されなかったアチーだが、彼女を精神的に追い詰めてボロを出させようという作戦だった(ホーはただ巻き込まれてしまっただけであった)。狙いは功を奏してアチーの精神状態は不安定になってしまう。隠しカメラを持ってアチーのボロを出す瞬間を撮影しようと接近した幽霊役は彼女に殺害されてしまい、幽霊役が持っていた隠しカメラの存在に気付くアチー。彼女は返り血を浴びてなお美しく微笑み、残された住人の部屋の前へ立つ。

これも人が怖い系ホラーだった。途中、幽霊と見ていた存在が実は死体(のフリ)だから捨てに行くシーン(捨てに行った死体が戻ってきた、という定番のホラー展開をしたかったことはわかるが)や伝説のヤクザ・ホーが実は怖がりで臆病で人殺しもしたことがないような人物であることなど、色々な要素を入れ込みすぎていて見づらかった印象を受けてしまった。あと何より怖さを感じられなかったところがいちばん残念だった。ただ、低予算であるとか時間による制約とか作り手側の事情もあるのかとは思うけれど。

【まとめ】

振り返ってみれば、3作とも人が怖い系ホラーだった。怪奇現象を入り口にして最終的には人が怖いよね、という話はミステリー的な仕掛けが上手く決まれば面白くなると思う。どの作品も「実は・・・」と物語にひねりを加えようとしていた。ただ伏線らしき伏線がわかりにくかったり唐突にオチのための設定が現れたりしたように受け取ってしまった部分もあった。この辺りは、鑑賞した僕自身が見逃したり読み取る力量が全然足りなかったりした可能性もある。ホラー映画はアジア圏でも色々な作品が作られていて個人的なヒット作も多くあるので、香港を舞台にした長編ホラーを楽しみに待ちたい。

【映画】サンクスギビング ネタバレ感想

【あらすじ】

「感謝祭(=サンクスギビング)」発祥の地マサチューセッツ州プリマス

一年に一度の祝祭に沸き立つ人々だったが

突如、ダイナーで働く女性が何者かに惨殺される事件が起こる。

その後も一人、また一人と消えてゆく住民たち。

彼らは皆、調理器具を凶器に、感謝祭の食卓に並ぶ

ご馳走に模した残忍なやり口で殺害されていた。

街中が恐怖のどん底に突き落とされるなか、

地元の高校の仲良しグループのジェシカたちは、

ジョン・カーヴァーを名乗る謎のインスタグラムの投稿に

タグ付けされたことに気づく。

そこには豪華な食卓が用意され、自分たちの名札が

意味深に配されていた・・・。

映画『サンクスギビング』オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ

 

【作品情報】

クエンティン・タランティーノロバート・ロドリゲスの2人が世に出した

グラインドハウス』(2007)の中で上映されたフェイク予告編をついに長編化!

フェイク予告編を手掛けたイーライ・ロスが自ら監督を務めたスプラッター映画だ。

 

イーライ・ロス監督は『ホステル』や『グリーン・インフェルノ』などホラーやスリラー映画の作り手として注目を集めている。

 

キャストには、『グレイズ・アナトミー』のパトリック・デンプシー

『シーズ・オール・ザット』(2021)のアディソン・レイや

『ホステル』のリック・ホフマンらが出演。

 

【ネタバレ感想】

★掴みはバッチリ

映画の冒頭には、連続殺人事件の引き金となる出来事が描かれていて作品内の時間軸でいうと、1年前の感謝祭へ遡る。

1年前の感謝祭の頃、開店前のショッピングセンターへ押し寄せる人々。

そう、今日はブラックフライデーセールの日だったのである。

 

(話はいったんそれるが、感謝祭(=サンクスギビング)はアメリカやカナダの祝日のひとつで、アメリカでは毎年11月の第4木曜日に充てられている。翌日の金曜日、学校や会社も休暇とするところが多いらしい。

その金曜日に小売店などは売れ残り品などを含めたセールを実施していて大勢の人々がやってくる。小売店の売り上げが伸びて黒字になる=ブラックフライデーという名で現在は定着したようだ。

日本でもこの習慣に乗っかったセールは広く行われていてすでにお馴染みの言葉だろう。)

 

主人公・ジェシカがショッピングセンター経営者の娘ということもあり仲間たちと一緒に裏口から開店前の店へ入店。

ステルス作戦だ、とのたまいつつ、お調子者の1人が外で待つ人々を挑発してしまったことで外で開店を今か今かと待つ人々の怒りや不満が爆発する。

 

そこから始まる阿鼻叫喚の地獄絵図!

暴徒のように化した人々が開店前のバリケードは力づくで突破し店のガラス戸をぶち破り店内へ流れ込む!

商品を奪い合い、押し合いへし合い、殴り合い小競り合い、自分さえよければそれで良いのだ!と大暴れする客達による大混乱が発生。

ついには死者も出てしまう結果となった。

 

映画的に大げさに描写しているんだろうと笑ったが、調べると現地のブラックフライデーセールの様子の映像の中にも商品争奪戦は見られて消費社会への風刺となっているのだろうか。

コロナ禍の中、スーパーの商品が強奪されていくニュース映像も思いだした。

多人数でいる時に、周囲に流されやすくなったり判断力が低下したりと人間の愚かさも伝わってくるシーンだし、エスカレートしていく人々の様子にブラックというか不謹慎な笑いも引き起こされ、かなり良い掴みのシーンだった。

 

商品の奪い合いシーンといえば、『ジングル・オール・ザ・ウェイ』は純粋なコメディで笑えるのに、似た状況も描き方ひとつで変わってしまって映画って本当に面白い。

 

★容赦のない人体破壊描写

さすがR18映画!

とにかくあの手この手で破壊されていく人体。もはやすがすがしさすら感じるほどだ。

ジャンルのファンは「これこれ!」と目を輝かせていたにちがいない。

ゴア描写への気合の入りようはとても伝わってきたし、見ているこちらも痛々しさにぞくぞくときてしまった。

イーライ・ロス監督の『ホステル』を視聴した時も同様の気持ちになったが今作でもどう痛めつけるか、殺人シーンをどう見せるかということに一番力を入れてくれていたにちがいない!

 

冷凍庫の扉の内側に張り付いた皮膚をべりべりと剥がす・・・

鉄製の大型ダストボックスの蓋に挟まれて離れ離れになる上半身と下半身・・・

トランポリンで飛ぶチアガールの足元から飛び出してくる刃物・・・

例はこれくらいで控えておくが、現実離れしているであろう人体破壊の描写は

テンポも良く、ある意味小気味いいのである。

 

で、その肝心の殺人鬼の動機は冒頭にも触れた、1年前に起きたショッピングセンターでの暴動に大きく関係していた。

暴動の際に関わった人間をターゲットにして殺人を繰り返していくわけである。

犯人描写に絡んでツボだったシーンは、犯人の人間味が伝わってくるシーンだ。

犯人はとあるターゲットの自宅内に侵入して事を済ませたわけだが、ターゲットは猫と暮らしていた。

その猫が自分のエサ皿の横におすわりして、なんともいえない目で犯人を見つめる。

不気味な仮面をつけた犯人と見つめ合う猫。

それだけでもシュールだが、最終的に犯人は猫のご飯を用意して去っていくのであった。

ちなみに、猫好きを伏線にして犯人を暗に示すのか、と思いきや、そういう描写はなかったと思う。(見逃していなければ)

 

犯人は誰かという点については、わかりやすいミスリードだったし、ミステリー的な面白さを期待する肩透かしを食らうかもしれない。

若者が主役となるスラッシャー映画らしく、家庭の抱える問題だったり、こじれる三角関係の男女と、お約束はきちんと入っていて楽しめた。

ラストシーンもジャンルファンのツボを押さえた終わり方でさらに良い。

 

★気になった点

ジェシカの今カレと元カレの役割は思い切って逆にした方が収まりがよくない?とか、

警察が包囲している学校の中で犯人は堂々と獲物を誘拐するが、いくら何でも警備がガバガバすぎない?とか、銃器販売店の店員が絶妙な立ち回りで主人公のピンチを救うことになっているところも細かいけど気になってしまった。

 

【まとめ】

上に書いた気になった点はささいなことだ。

この映画で一番大事なことは、殺人鬼が大暴れすることだ。

その需要は完全に満たしてくれる王道のスラッシャー、スプラッター映画で、グロテスクな描写に耐えられる、なおかつそういうのが好きな人は十二分に楽しめる作品となっていると思う。

すでに続編が決定しており、2025年に全米公開予定とのこと。

今作以上に、グレードアップして楽しませてくれることを期待したい。